長門と一晩中 1
【第1章:湯けむり、零れるデータと鼓動】 湯けむりがもうもうと立ちこめる貸切の岩風呂。その中心に、彼女はぽつんと座っていた。長門有希。無口で無表情、どこか浮世離れしたような女の子。だけど今、その長門が俺の隣にいて、しかも信じられないくらい大きな胸元を、薄いタオル一枚でかろうじて隠していた。 すでに俺は湯船に浸かっていて、彼女は俺の隣にぴたりと身を寄せてきていた。肩が触れる。腕が押しつけられる。 その感触に、息が詰まりそうになる。 「……狭い」 ぽつりと呟く長門。 「いや、わざわざそんな近くに来たのお前じゃ……」 「密着したほうが熱伝導率が高い。わたしの学習によると、温泉での最適な接触距離は——これ」 そう言って、さらに密着してくる長門。 くっついてるどころじゃない。むにゅ、という柔らかすぎる感触が、俺の二の腕を押しつぶしていた。 「ちょ、ちょっと待て長門……。タオル、ずれそうだぞ」 「わたしの計算によると、布面積はあと7%減っても問題ない。……あなたの視線、定まっていない」 「いや、見るなっていうのが無理だろこれ!」 目のやり場に困るとは、まさにこのことだった。タオルの下から、まろやかな膨らみが半ば顔を出している。湯の反射が長門の肌を艶かしく照らし、彼女の白い肌がほんのりと紅潮して見えた。 「……さっきから、ずっと鼓動が速い」 突然、彼女が俺の胸元に耳を寄せてきた。髪がくすぐったい。ぴたりと胸板に押しつけられる、たわわな胸。 「こうしてると、伝わる。……あなたの反応」 「長門……お前、ほんとに宇宙人か……?」 「……今は、あなたの隣にいる女の子。もっと、近くにいたい」 彼女の言葉は、息を飲むほどストレートだった。いつも無表情なその顔に、ほんの微かな恥じらいが浮かんでいた。それが逆に、心をぐらつかせる。 俺はもう耐えきれず、そっと彼女の手を取った。細くて冷たい指先が、湯に温められていた。 「……部屋、戻ろう。のぼせる前に」 「うん。……わたしの部屋、来て」 * * * 旅館の一室。長門の部屋は、俺の部屋よりちょっとだけ広い。 彼女は浴衣に着替えていた。だけどその浴衣も、帯をゆるく巻いただけ。足を折って座れば、胸元が大胆に開き、深い谷間が否応なしに目に入ってくる。 「……落ち着かないな」 「その状態は、あなたの内分泌系が過剰反応している証拠。つまり、わたしに……欲情してる」 「い、言うなよそういうことをっ!」 「でも、それは自然。あなたがわたしに触れたくなるのは、必然。わたしも……同じ」 彼女の指が、俺の手を探し、繋がれる。小さく、でも確かに震えていた。 「……ねえ」 小さな声。 「さっき、湯船で……触れてた。気づいてた?」 「えっ……どこを?」 「ここ」 彼女は、自分の胸元を指で押さえた。柔らかそうなその膨らみに、俺の手の甲が一瞬、当たっていた気がする。たぶん、いや、確実に……。 「もっと、ちゃんと……触れてほしい」 彼女の顔が真っ赤になっていた。それでも、瞳は逸らさない。 俺は、そっと彼女の肩に手を置いた。するりと滑るような肌。肩をなぞり、鎖骨を撫で、そして…… 「ん……っ」 小さく、息が漏れた。彼女の胸元に手を添えた瞬間、湯気より熱い何かが、俺たちの間に生まれた。 タオルも浴衣も、もう意味をなさなかった。触れ合う肌と肌、重なる吐息。無口な彼女の口から、甘く切ない吐息が漏れていくたびに、俺の心臓は跳ね上がった。 この夜が、永遠に続けばいいと、そう思った。 彼女の指が、俺の胸にそっと触れ、爪先がもぞもぞと俺の足を探していた。寄り添い、抱き合い、触れ合いながら、俺たちはゆっくりとベッドに身を沈めていく。 「好き、あなたのこと」 たった一言。でも、そこにあふれる感情は、誰よりも強かった。 長門有希は、俺にだけ見せる――とても、可愛くて、熱い女の子だった。