涼宮ハルヒと一晩中 1
第一章「団長は混浴温泉でも容赦ない」 「ねえ、こっち。……あたしが呼んでんだから、素直に来なさいよ」 そう言って俺の手を引くハルヒの掌は、ほんのり熱を帯びていた。 気温のせいじゃない。もっとこう、内側から発してる、火照りみたいなもの。 薄暗くなってきた温泉旅館の廊下、その浴衣姿の彼女は、いつもの“団長”よりも数段女らしく見えて――俺は、不覚にも言葉を失っていた。 「……なに? ボーッとしてる場合? これから混浴よ、混浴。あんたと、あたしと、二人きり。――ドキドキしなさいよ」 言葉の最後にわざとらしいくらいの色っぽさを乗せて、ハルヒは俺の手を引いたままくいっと微笑んだ。 ……いやいや、冗談だろ? というか、いつもの悪ノリだろ? そう思いたかったのに、彼女の手にはしっかりとタオルが握られていて、浴衣の裾は既にゆるくほどかれている。 こっちはまだ頭がついていってないってのに。 「どしたの? 顔、赤いわよ。まさか……期待してる?」 「……するわけないだろ」 「ふーん? じゃあ今、その目はなんであたしの胸元見てたの?」 ドクン、と音がしたのは、心臓か、それとも空気の震えか。 ハルヒの浴衣はゆるめに着付けられていて、すでに襟元ははだけ気味だった。 鎖骨の下、くっきりとした谷間が視界にちらついて、否応なく意識を持っていかれる。 しかも、それが……でかい。 こいつ、自慢げにしてたことあるけど、本当に大きいじゃねえか。 少なくとも、普通のレベルじゃない。 「うわ、今また見た。見てたでしょ。……じゃあ、はっきり言えばいいじゃない。“見惚れてました”って」 「いや、そうじゃなくて――」 「んー、あたしがサービスしすぎたかしら。じゃ、もっと見せる?」 言うなり、ハルヒは帯に手をかけた。 片手でぐっと引くと、浴衣の前がさらにゆるみ、白く柔らかそうな肌が、すぅっとあらわになる。 夜気に触れて鳥肌が立ってるのが分かるくらい繊細な肌。 胸のラインが、タオルすら巻いてない状態で、布の陰からこぼれ落ちそうになって―― 「――ちょ、ま、まてっ、ハルヒ!!」 「なに? あたしに裸見られて恥ずかしいなら、先に入ってもいいわよ? でも、見せ合うのが混浴の醍醐味でしょ?」 冗談で言ってるような口ぶりなのに、目はまったく笑ってなかった。 むしろ、真剣そのもの。 「――あんた、あたしのこと、女として意識してんでしょ」 「……!」 「いいよ。してくれて。だって、あたしも……あんたのこと、ちょっとだけ、そう見てるから」 ささやくような声が、俺の耳元をなぞる。 その瞬間、背筋にぞくっとした感覚が走った。 耳たぶにかすかに吐息がかかって、熱い。もう、理性なんて吹き飛びそうだ。 「さ、行こ。――二人で、あったまりましょ」 そう言って、ハルヒは脱衣所の中へと吸い込まれていった。 俺は、動けなかった。 興奮と混乱と、何かに踏み出す直前の危うさに、足がすくんだまま。 けれど、そのまま引き下がるには――彼女の背中はあまりにも魅力的だった。