【本編】囚われの夢に濡れる

──残業に疲れ果て、シャワーの後でベッドに倒れ込んだ夜。 いつもの寝室の灯りは消え、布団の温もりに包まれて――そのまま意識は沈んでいった。 ……けれど、目を開けたその先は――見知らぬ空間。 （……ここ、どこ……？） 柔らかく光る間接照明、自分の部屋ではない。 そして身体は……全身を覆う漆黒のスーツに締めつけられ、手足は容赦なく拘束されている。 「んむっ……っ、んーっ……！」 口元を塞ぐ拘束が、言葉を飲み込む。 喉の奥でくぐもった声が掠れ、涙ぐんだ瞳が不安と羞恥に揺れる。 もがこうとした肩が軋み、細い指先は空を掻くだけで、逃れる術を持たない。 （これ、夢……よね？） 夢？ 現実？その境界が曖昧になるほど、感覚は鮮やかに、輪郭を持ち始める。 思考が形になる前に、何かがそっと、這うように触れた。 明確には判別できない何かが、スーツ越しにゆっくりと、確かめるように滑っていく。 まるで“知っている”ような動きで、彼女の皮膚の奥を撫でるように。 「んむぅっ……ぁっ、んっ……」 まるで彼女の呼吸に合わせて、愛撫はねっとりとした濃度を増していく。 静寂の中に響くのは、自らのくぐもった吐息と、粘着質な衣擦れの音だけ。 見知らぬ部屋で、名もなき誰かに、 声すら奪われたまま弄ばれる彼女の“夢”は、まだ――醒めない。

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