朝比奈みくるちゃんと一晩中 1
第一章「湯けむりに溶ける未来の声」 温泉旅館ってやつは、夜になると妙に色っぽい。 ほんのり灯った廊下の行灯。鼻をくすぐる畳とお湯の匂い。遠くから聞こえる風鈴とせせらぎの音。そして―― 「……あの、本当に……誰も、来ないんですよね?」 おずおずと漏れた声は、かすかに震えていた。 振り向いた俺の目に映ったのは、湯けむりの中、白い肌をバスタオル一枚で包んだ朝比奈みくる。 顔は真っ赤。瞳は潤んで、タオルの端をギュッと握りしめてる。 だけど、それ以上に目を引くのは――タオルからこぼれそうな、いや、もうすでに押し負けてる、規格外の胸。 「うん。今の時間はうちらだけで貸切ってるって、旅館の人が言ってたし。他の団員も部屋で寝てるよ」 「そ、そうですか……じゃあ……」 彼女はゆっくりと、まるで踏み外しそうな橋を渡るみたいに、一歩ずつ湯船に近づいた。 そのたびに、胸元のタオルがふるんっと揺れる。 俺の目がそこに吸い寄せられるのも、もはや仕方のないことだったと思いたい。 「ふぁっ……あつっ……///」 片足を湯に入れた瞬間、彼女は小さな声をあげた。 お湯の温度よりも、彼女の反応の方が俺の体温を跳ね上げてくる。 「ふぅ……あったかいですね……」 肩までお湯に浸かった朝比奈さんは、ぽわんとした顔で息をついた。 タオルは胸元で必死に押さえてるけど、それでも谷間のボリュームは隠しきれてない。 湯気の中で、その曲線が幻想的に揺れていた。 「……熱くないですか?」 「いや、大丈夫。ってか、朝比奈さんこそ……タオル、落ちそうだよ」 「ひゃっ……!」 慌てて胸元を押さえる仕草が、またたまらない。 「も、もう……見ないでください……」 「いや、無理だよ。それは」 つい本音が漏れた。 彼女は一瞬きょとんとしたあと、頬を真っ赤に染めて、ぷしゅーっと湯気みたいに縮こまった。 「そ、そんなに……ですか?」 「いや、こんな近距離で……その……」 俺は言葉を濁した。 「……恥ずかしい……」 彼女はお湯の中で、もじもじと膝を抱え込むように丸くなる。 でもそのせいで、タオルがさらに食い込んで――いや、もうアウトだろこれ。 「……こ、こういうのって……やっぱり、変じゃないですか? 男の人と、一緒にお風呂って……」 「そりゃまあ普通はそうだけど……朝比奈さんが一緒にいてくれて、嬉しいよ」 「……そんな……嬉しいだなんて……」 彼女の声は、だんだんと小さくなっていく。 そのあとしばらく、お湯の音だけが響いた。 ふと目を向けると、彼女の視線が俺の腕に向けられていた。 「……あの、腕……」 「うん?」 「ちょっと、貸してくれませんか……?」 「腕? あ、うん……」 差し出した右腕を、彼女はそっと抱え込んだ。 そのとき、彼女の胸が、タオル越しにぴとっと…… 「っ……!!」 柔らかい。 いや、そんなレベルじゃない。 言葉にできない、夢の触感がそこにあった。 「……あったかいですね……ふふ」 微笑む彼女の表情は、まるで天使だった。 未来人っていうより、もう、俺の理性を未来に吹っ飛ばす女神だ。 「……あの、こっち、来ませんか?」 「え?」 「ほら……隣、あいてますよ?」 ぽんぽんと自分の隣を叩く彼女。 もう、理性なんて捨てて飛び込むしかなかった。 それからのことは、正直、あんまりよく覚えていない。 気づいたら、湯上がりの俺たちは、部屋に戻っていた。 いや、"同じ部屋"に、だった。 「……お部屋、間違えちゃったかも……」 とか言ってるけど、絶対わざとだろ、これ。 畳に敷かれた布団。浴衣姿のみくるさん。 胸元がゆるんでいて、またしても規格外の曲線が…… 「……となり、来ますか……?」 その一言に、俺は静かに頷いた。 その夜、彼女の温もりは、ずっと隣にあった――。