長門と一晩中 3
【第3章:静寂と熱、そして唇と掌の距離】 夜の帳が下りた頃、俺たちは部屋に戻っていた。 浴衣のまま布団に腰掛けた長門有希は、相変わらず無表情——だけど、わずかに揺れる視線の端に、見え隠れするものがある。それは、迷いか、それとも……期待か。 「……まだ、見たい?」 その言葉に、俺の心臓が跳ねた。返事をするより先に、長門は自らの浴衣の胸元に指をかけ、そっと緩める。 湯上がりで紅潮した彼女の肌。露わになった胸元は、さっき混浴で触れた時よりもさらにやわらかく、色香を漂わせていた。 「自己調整。照明の波長と、あなたの視覚神経に合わせて光反射を最適化してる。……綺麗に見えるように」 なんという乙女仕様……っていうか、もはや恋人チューニングだろこれ。 「……ああ、綺麗すぎて、目が眩む」 彼女は小さく瞬きをして、何も言わず、俺に体を預ける。すっと寄り添ってきた身体は熱を帯びていて、俺の胸元にそっと彼女の額が触れた。 「キス、して」 その一言に、俺は自然に彼女の顎を指でそっと持ち上げ、唇を重ねた。 濡れたような唇。触れた瞬間、彼女の身体がびくりと小さく震え、微かな吐息が俺の唇をくすぐった。 「ん……ふ……っ」 彼女は目を閉じ、俺に全てを預けるように、深くキスを受け入れてくれる。その吐息は甘く、時折くぐもった声となって、俺の耳の奥まで届く。 そして、俺はゆっくりと手を彼女の胸元に滑らせた。 「っ……あ……」 手のひらいっぱいに収まらないほどの膨らみが、浴衣の下で俺の掌におさまった。柔らかく、熱く、しっとりとした感触。彼女の体温が、まるで炎のように俺の掌を包み込む。 「そこ……気持ちいい。あなたに触られると……変になる」 長門の声は、まるで別人のように色を帯びていた。理論や分析ばかりを語っていた彼女が、今はただ、俺の名前も言わず、震えるように息を漏らしている。 彼女の両腕が俺の背に回され、指がぎゅっと俺の服を掴む。 「……もっと、して」 その言葉に、俺は応えるようにキスを深めた。唇をすべらせ、舌を添え、彼女の小さな震えと熱を確かめる。 そして掌は、柔らかな丸みを撫でながら、彼女の鼓動を感じ取る。 長門有希——無口で無表情な、宇宙的存在の彼女が、今この瞬間、俺だけのためにこんなにも甘く、熱くなってくれている。 「好きだよ……長門」 「わたしも。あなたが好き。あなたの声も、手も、唇も……全部」 その夜、俺たちは言葉よりも深いところで、何度も確かめ合った。甘く、静かに、そしてゆっくりと、互いの心と体の距離を縮めていく。 まるで、彼女の宇宙に、俺が着地していくように——。