「神殿に住む巫女」
森に呑まれた古代神殿には、一人の巫女が住んでいた。 彼女の名を知る者はいない。ただ人々は、“光を祈る巫女”と呼んだ。 崩れかけた柱、蔦に覆われた石壁、風が吹くたびに鳴る見えない糸。 その神殿には、人ではない何かが眠ると言い伝えられていた。 巫女は毎朝、白い衣を揺らしながら静かに祈りを捧げる。 誰かのためではなく、封じられた存在を眠らせ続けるために。 神殿に住む巫女という存在は、古くから“境界を守る者”として語られることが多い。 だがある日、異変が起きた。 青く淡く光る鳥が神殿に現れたのだ。 普段は祭壇の奥にしか姿を見せない神霊の使いが、怯えたように空を舞い、鋭い声をあげていた。 巫女は胸に手を当て、森の奥を見つめる。 ――封印が、揺れている。 神殿の地下深くには、“願いを喰らうもの”が眠っていた。 人の絶望を糧に力を増す古い災厄。巫女の役目は、その存在に自らの孤独を捧げ続けることだった。 笑うことも、誰かを愛することも許されず、心が揺らげば封印は弱くなる。 青い鳥は彼女の肩に降り立ち、震える羽で空を指した。 遠い空に、黒い裂け目が生まれていた。 初めて、巫女は神殿を出る決意をする。 「私が守るのは、この場所だけじゃない――」 白い裾を風に揺らし、巫女は静かな森を歩き出した。 何百年も閉ざされていた神殿の扉が、光の中でゆっくりと開いていく。 そして誰も知らなかった。 その巫女自身こそが、“最後の封印”だったことを。
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