時計塔の住人
古い街の外れに、誰も近づかない時計塔があった。針はいつも同じ時刻――午前零時七分で止まっている。 人々はそれを「時を拒む塔」と呼び、忘れ去ろうとしていた。 だが、ある嵐の夜、青年はその塔に足を踏み入れる。妹が失踪した直前、「塔の上で会える」と呟いていたからだ。 錆びた扉を押し開けると、内部には無数の歯車が息を潜めるように静止し、空気はひどく冷たかった。 階段を上るたび、どこかで微かな音が鳴る。 カチ、カチ、と――止まっているはずの時計が、彼の歩みに合わせて刻み始めているようだった。 最上階で、青年は一人の少女と出会う。妹に似ているが、どこか違う。透き通るような瞳で、彼女は言った。 「ここは、忘れられた時間が集まる場所。私は、その番人」 少女は、自分がかつて人だったことを覚えていないという。 ただ、零時七分に“選ばれた誰か”がここへ来るとき、塔は再び動き出すのだと。 青年が妹の名を告げると、少女の表情が揺らぐ。塔の歯車が一斉に軋み、止まっていた針がわずかに進む。 「……思い出した。私は、あなたの妹」 彼女は笑った。けれどその姿は、ゆっくりと光に溶けていく。 塔に囚われた時間は、誰かが真実に辿り着いたとき、解き放たれる代わりに消えてしまうのだ。 針は零時八分を指した。 嵐が止んだ朝、時計塔は静かに崩れ落ちていた。瓦礫の中で、少年は小さな懐中時計を見つける。 蓋を開くと、そこには幼い頃の自分と妹の写真が収められていた。 時計は、今も動いている。 まるで、彼女がそこにいるかのように。
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