旅の魔女 ~人々の願い~
夕暮れの田舎道を、一人の魔女が箒で飛んでいた。 黄金色の稲畑が風に揺れ、細い川には夕日がきらきらと映っている。遠くでは踏切の音が鳴り、小さな一両列車がゆっくりと走っていた。 まだ一人前になったばかりの旅の魔女だった。 彼女は「人の願いを届ける」という不思議な仕事をしている。手紙ではない。言葉にもできなかった“想い”を運ぶのだ。 ある日、魔女は山あいの小さな村へ降り立つ。 そこには、毎日同じベンチに座る老人がいた。老人は空を見上げながら、ぽつりと呟く。 「もう一度だけ、あの子に会いたいなぁ…」 魔女は帽子を押さえながら尋ねる。 「その人は、どこにいるの?」 男性の老人は寂しそうに笑った。 「都会へ行ったきり、帰ってこんのさ」 その夜、魔女は星空の下を飛び立つ。 山を越え、海を越え、眠らない街へ向かった。 ようやく見つけたのは、小さな花屋で働く女性だった。彼女は老人の娘だった。 私は何も言わず、小さな魔法を使う。 すると女性の胸に、懐かしい田んぼの匂いと、夕暮れの景色が広がった。 「……お父さん」 女性の瞳から涙がこぼれる。 数日後、魔女が再び村を訪れると、あのベンチには老人と娘が並んで座っていた。 二人の後ろで、稲穂が静かに揺れている。 私は少しだけ微笑み、再び箒にまたがった。 夕焼け色の空へ、小さな旅路は続いていく。
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